蘭陵王、姓は高、名は粛、字は長恭といい、北斉の王。
勇猛果敢であったが、顔立ちが優しく美しかったため、
戦に赴くときは恐ろしい鬼面をつけて素顔を隠した、と言われています。

ところで、蘭陵王は自分の顔を隠すために仮面をつけたわけですが
鬼面を選んだということは恐ろしい表情で敵を怯ませるという
効果を狙ったといえると思うのです。
ではその仮面を取る時はどうだったのでしょう？
何らかの効果を考えてはいなかったのでしょうか？

私なら、蘭陵王に打ち破られ、捕虜となった敵の王の前に
彼を立たせてみたいと思います。

捕らえられ縄をうたれてなお、胸中では復讐の刃を研ぐ
敵王は鬼面をつけた蘭陵王を睨みつけます。
敗者となったのは地の利、時の利がなかっただけ、
自分が劣っていたからではないのです。

それを静かに見下ろし、陵王は鬼面をはずします。
鬼面の下からは思いもかけぬ優しげな表情があらわれます。
目を伏せていてさえ際立つ美貌に誰もが眼を奪われてしまいます。

いったいこれはどうしたことだ！
自分はこのような優男に負けたのだろうか！？
敵武将はうろたえます。
信じられないものを見るように見上げる男の前で、
次の瞬間、陵王の目がカッと見開きます。

冷徹で、聡明な光がその両眼には溢れています。
その姿に似合わぬ勇猛果敢な戦士の魂が宿っています。
さて、その時敵王はどのような精神状態に陥るものなのか？
こんな優男に！と憎しみが増し、
復讐の誓いがなおさら確固としたものになるのか、

自分の、強者の常識を覆す存在に驚き、観念して心酔してしまうものなのか？

さて、鬼面をはずす、その効果はどちらに…？
実に興味のあるところです。





私は、隠されていたものが現れてその場の空気を変えてしまう、
その瞬間にとても惹かれます。

雲から現れた月の光に浮かび上がる魔物、
夜明けとともにキラキラと輝きだす砂の中の小さな宝石、
仮面の下から現れる美貌、
閉じたまぶたを押し上げる強さを感じさせる瞳。

そういったものにとっても心惹かれてしまうのです。
そしてそれを絵にしてみたいと願っているのですが、
難しいです。